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【映画】【アニメ】オオカミの家

二次元と三次元が流れるように混じり合い、破壊と再生、構築と消失の繰り返しで紡がれて行く物語。

【オオカミの家】 2018年 - チリ - 74分

原題:
La casa lobo / The Wolf House
監督:
クリストーバル・レオン
ホアキン・コシーニャ

"助け合って幸せに"をモットーとするチリ南部のコロニーで制作されたとある映画。コロニーに対する悪い噂を払拭するようにと公開されたそれは、ブタを逃がしてしまったことから厳しい罰を受け、コロニーを脱走し、森の中の一軒家で2匹の子豚と暮らし始めた少女マリアの物語だった。




今月の鑑賞予定映画の中で、最も楽しみにしていた作品。

私にしては珍しく入場可の時間になってからチケットを買いに行ったら、入口まで人が並んでいてびっくり。席もあまり空いてないし、パンフレットも足りなくなってバックヤードから追加していたようだし、かなりの注目作!?どうやら都内の劇場もそんな感じらしい。

ヴェルタースオリジナルのCMのような実写から始まる本作。映画のメタファーをしっかり分析して意図をはっきりさせないと気が済まない人にはオススメしない、でも映像体験やアート、抽象的な感覚が好きな人には力強くオススメしたい映画だった。

ストップモーション・アニメは大好きなので、ティム・バートン作品やスタジオライカの作品も昔から好んで観てきたし、2023年一発目の映画も「マッド・ゴッド」から始まって、今年観たストップモーション・アニメは今作で3作目。それでもこれは、まるきり初めての映像体験だった。

二次元と三次元が流れるように混じり合い、破壊と再生、構築と消失の繰り返しで紡がれて行く物語。ポーズや場面が変わる度、人(人形)がイチから形成されて行く。片手ひとつあげるにも人形から新たな手が生え、移動するにも壁の絵として一筆ずつ新たに描かれ、そして消えて行く。それらがワンカットのように作られているので、凄すぎてどうやってこんな映像を作ってるのか理解が追いつかない。

本作の着想元となっている実在したカルト共同体"コロニア・ディグニダ"についても、簡単な知識を持った上で観た方が映画を理解する手助けになるかもしれないと思った。
子どもたちを子豚と呼び、日常的に性的虐待や殺人を行なっていたにも関わらず、表向きは善良な宗教施設として運営されていた"コロニア・ディグニダ"。
抽象的な表現ばかりで読み解くのが難解(というか不可能?)な映画ではあったものの、本作のベースに「3匹の子豚」があるのは理解できたし、実際に出てくるのは子豚2匹で、3匹目がマリア自身であることも何となく分かった。オオカミが組織の設立者、シェファーそのものであることも。

人間に変身させた子豚たちを新たな家族として愛して行こうとする主人公のマリア。でも長年受けてきた虐待や洗脳によってその愛は歪んでいて、マリアが子豚たちにしている行動も、甘い声でマリアを家の外に誘い出そうとしているオオカミと変わらないのでは?と気づいた時の恐ろしさ。子豚たちも決して純粋な存在ではなく、家の中も決して安全じゃない。
一度洗脳されてしまった人間は、そこから逃げ出したとしても決して自由にはなれず捕らわれ続けたまま、正常な生活には二度と戻れないというカルマのようなものが、映像表現として映し出されていて衝撃だった。

破壊と再生という点では「マッド・ゴッド」にも共通する点があったものの、生と死を同時にぶつけてくるような強烈な悪夢だった「マッド・ゴッド」とは全く違って、「オオカミの家」は人間の形を保とうとしてもうまく行かず、破壊と再生を繰り返すしかない不安定さや脆さが感じられて、精神病の人の悪夢を覗いているような気分だった。

好き嫌いはものすごく分かれるだろうけど、映画という媒体の一種の表現方法として、観ておいて損はない気がする作品。

MEMO---
・「3匹のこぶた」より「オオカミと7匹の子ヤギ」のイメージ...というか「モルカー」の作者が作った「マイリトルゴート」を連想したんだけど、やっぱり里見朝希さんが公式コメントを寄せてて「でしょうね〜!」ってなった。


(2023/09/10)映画館(字幕)


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