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【映画】数に溺れて

画面に散りばめられた数字を数えることで、いつの間にか観ているこっちまで数と映画に溺れていく演出が秀逸。

【数に溺れて】 1988年 - イギリス - 114分

原題:
Drowning by Numbers
監督:
ピーター・グリーナウェイ
キャスト:
ジュリエット・スティーヴンソン
ジョエリー・リチャードソン
ジョーン・ブロウライト
ブライアン・プリングル

同じ"シシー"と言う名を持つ祖母・娘・孫の3人の女たち。それぞれの夫を溺死させた女たちは、知り合いである検視官のマジェットに事故死として処理させようとするが...



ピーター・グリーナウェイ・レトロスペクティヴ鑑賞2作品目。
これからあと2作観る予定だけど、これまで観たグリーナウェイ作品と併せて、現在好きなグリーナウェイ作品暫定1位の好み過ぎる映画だった。

星を100まで数えるドレス姿の少女から始まる映画。
グリーナウェイ作品ってつくづく絵画的で、映画鑑賞と美術館賞を同時に行っているような気分になる。でも今作は淡々と進んでいくテンポや群像劇、シンメトリーの構図、少年の語りなどなど、ウェス・アンダーソン作品の雰囲気を強く感じる作風だった。アリ・アスターヨルゴス・ランティモスが影響を受けたとしてグリーナウェイの名前を挙げているけど、ウェス・アンダーソンも確実にグリーナウェイの影響を受けてそう。私の好きな(時には愛憎とも言える)監督たちの原点にグリーナウェイが存在してるんだから、そりゃ私、グリーナウェイ作品が好きに決まってる。ただし、ウェスアンダーソンの世界がパステルカラーなら、こちらは油絵のような世界観だった。

映像美はもちろんのこと、今作は皮肉が効いたストーリーもすごく私好みだった。"数"がテーマだからかストーリーにも規則性があって、その反復のシュールさに思わず何度かクスッと笑わせられた。
ジャンル=サスペンスに分類されてもおかしくないけど、この作品って少なくともグリーナウェイ自身は9割コメディとして作ってそう。英国らしいウィットに富んだブラックユーモアで会話の応酬も本当に面白かったし、"強かな女たちと愚かな男たちの悲喜劇"と言う構図もすごく好きだった。祖母・娘・孫の俗に言うピーナッツ親子という関係すら超えた同一性。名前すら同じ3人のシシーに翻弄される検視官マジェットの「時々3人が1人の同じ女のように思える」と言う台詞が色々物語ってそう。

映像そのものにもトリックがあって、画面の中にさまざまな形で1から100の数字が出てきて、分かりやすいものからこれは気付けないだろっ!っていう小さなものまであって、到底1度の鑑賞で全部の数字を見つけることはできなかった。個人的に好きだった数字の見せ方が、その後もずっとウェア姿で登場するランナーたちのゼッケンと、お葬式の時にカメラが一度通り過ぎて、もう一度同じ軌跡で戻った時に忽然と現れた譜面台の上の数字のやつ。
それと、数字の見せ方以外で好きだったのが、毎回女の子の縄跳びの縄が変わっていたところ。ラストでようやくそのことに気づいて、そういうこだわりが大好き〜!ってなった。

こんな風に画面に散りばめられた数字を数えることで、いつの間にか観ているこっちまで数と映画に溺れていく演出が秀逸。これは是非ディスクを買ってもう一度数に溺れてみたい。

(2024/06/29)映画館(字幕)/ ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティヴ 美を患った魔術師


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