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【映画 / 舞台】ナショナル・シアター・ライブ ライフ・オブ・パイ

ステージそのものが船であり海。

【ナショナル・シアター・ライブ ライフ・オブ・パイ 2023年 - イギリス - 139分

原題:
National Theater Live: Life of Pi
監督:
マックス・ウェブスター
キャスト:
ハイラム・アベセカラ
原作:
ヤン・マーテルパイの物語


インドで動物園を運営している一家に育った息子のパイ。国内の情勢不安から移住を決めた父に従い、パイの家族と動物を乗せた日本の船はカナダに向けて出港するが、嵐に見舞われた船は沈没してしまう。
事故原因の聞き取りをするため、唯一の生き残りであるパイを訪ねて病院へとやってきた日本の調査員に、パイは227日間に渡るトラとの壮絶な漂流生活を語り始める...



ナショナル・シアター・ライブ(NTL)10周年アンコール上映のラインナップで、私が特に観たかったのが「善き人」とこの「ライフ・オブ・パイ」。
最初はスケジュール的に諦めていたものの、日本橋での上映日程が急遽変わったので「これは行くしかない!」と思い立って遠征してきた。

今作は先日観た「善き人」の削ぎ落とされたシンプルな舞台とはガラッと違っていて、逆に凝った舞台装置や演出によって、舞台にしかできない表現を最大限に魅せてくれる作品だった。

映画では大人になったパイが作家に物語を語るという設定だけど、舞台では救助されてから間もない少年パイが、病院で日本の調査員に物語を語るという設定。ハイラム演じるパイは映画より飄々とした性格で、相手を手玉に取るような頭の良さや大人をもたじろがせる発言に思わずふふっと笑ってしまう。一見明るく見えても端々に心に負った深い傷を感じさせる演技も見事だったし、ふとした切っ掛けでパイの漂流のトラウマが蘇り、場面が病院から海上へとシフトして行くんだけど、ここの演出がめちゃくちゃ、めちゃくちゃ良かった。

舞台の床から迫り出してくるボートが現実とパイの語る物語をシームレスに繋ぐ役割を果たしていて、舞台装置も演劇の大事な一部であることを改めて実感した。ステージそのものが船であり海。
ボート上には病院のベッドがそのまま残されていて、ベッドを映画に出てきたようなボートの幌と想像して見ても良いし、現実と回想を繋ぐ要素として病院のベッドそのものとして見ても良いと思った。そういう余白って、演劇ならではの魅力だと思う。

パペットの動物も素晴らしくて、生き物としての息遣いが感じられたし、作り物の筈の目から感情が溢れ出ていた。動物の骨組みの中に人間が入って、パーツは数人で操るタイプのパペットなんだけど、「ライオンキング」の成功があってこそ、こういう新しい舞台へと繋がってきているに違いないと勝手に想像して感動しちゃった。

パペットのようなある意味古典的な技術もあれば、プロジェクションマッピングのような比較的新しい技術を使った演出も見事で、ステージに映し出された映像は荒れ狂う本物の海のようだった。ボートを揺らせば揺らした方向に波が起きて、ボート自体は全く動いていない筈なのに、本当に揺れていると錯覚してしまうほど。
奥行きだけじゃなく俯瞰や高さの演出も活きた舞台だったので、2階や3階席からも観てみたくなる。その点、両方の席の視点で観れるNTLはお得かも。

演出が見事過ぎてついつい演出についてばかり語ってしまったものの、ストーリーやテーマもすごく良かった。舞台版では冒頭のインドのシーンで、パイがさまざまな宗教に興味を持っていることがコミカルな場面として時間を割いて描かれていて、この先に語られる物語が実は宗教や神の話であるというのが分かりやすくなっていたし、そんな物語の聞き手が国民性として無宗教な日本人という設定もより活きていて、同じ日本人という立場として余計に心に染みるものがあった。
家族や先生たちの教えもパイの導きとなっている演出だったので、パイとトラとの一対一の戦いの要素が強かった映画とも、また違った解釈ができそう。


(2024/01/08)映画館(字幕)

映画:
roars-movie.hatenablog.com


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