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【映画】哀れなるものたち

ベラにしろゴッドにしろ、誰かのエゴ<自分本位>によって創り出された存在ではあるものの、自分自身の経験や選択でエゴ<自我>を見つけられていたように思う。

【哀れなるものたち】 2023年 - イギリス - 141分

原題:
Poor Things
監督:
ヨルゴス・ランティモス
キャスト:
エマ・ストーン
マーク・ラファロ
ウィレム・デフォー
原作:
アラスター・グレイ哀れなるものたち (ハヤカワepi文庫)




やっと観に行けると思ったらいきなり上映回数が減ってて焦りながらも、ようやく「哀れなるものたち」を観てきた。こう言う映画大好き!面白かった、というか興味深かった!

設定からは『フランケンシュタイン』的な話だと思ってたし、ベラが搾取や利用される方向で酷い目に遭う悲劇的な話だとも思ってたんだけど、実際は全然違くて結構笑えるところも多い哲学的な映画だった。

純粋に19世紀の設定かと思いきや、時々おや?っと思わせる不思議な世界観にベラと巡る地上版『神曲』みたいな印象もあったし、"大人の体に子どもの精神"と言うインパクトある設定からもちょっと誤解してたけど、本質は映画の最初に提示されていた"獣の人間の違いとは?"についての旅だったように思う。

全ての女性は誰かの母か娘。そのどちらでもあるベラは究極の"女"で、乱暴に分類するとわりと「バービー」との共通点が多い映画だと思うんだけど、今作の方が断然好きだった。"女"と言うより"人間"の探求の旅だったからかな?ベラにしろゴッドにしろ、誰かのエゴ<自分本位>によって創り出された存在ではあるものの、自分自身の経験や選択でエゴ<自我>を見つけられていたように思った。

「哀れなるもの」と言うタイトルも、ベラやゴッドのような異質な存在が"哀れなるもの"?それともダンカンやアルフィーのような存在が"哀れなるもの"?と映画を観ながらあれこれ考えていたけど、結局人間は全て"哀れなるもの"たちで、それでいて人間讃歌な映画だったので観終わった後清々しい気分になった。まさかヨルゴス監督の映画で清々しい気分になるなんて思ってもなかったよ!

ヨルゴス監督とは分かり合えそうでずっと分かり合えなくて「監督の世界観は絶対好きな筈なのに、感性は一致するけど性癖が合わないんだと思う」って散々グズってたから、今作を観て監督の感性で他の人の性癖(原作)なら分かり合えるということが判明して良かった(良くない)。
衣装も世界観も美術的で、ホント監督の感性はめちゃくちゃ好きなんだよね。数はあまり観てないけど私、ピーター・グリーナウェイ監督の作品がすごく好きで、ヨルゴス監督がグリーナウェイの影響を受けているというのも今作を観てめちゃくちゃ納得した。まだ原作を読んでないので何とも言えないけど、下手すると退屈な映画になってた可能性もありそうで、世界観でバランスを取ってたのはお見事。あと、時々丸いレンズのような視界になるのも客観的に出来事を観察してるようでちょっとした神的体験だったし、ベラの体験/冒険/探求/実験の始まりから世界がカラーになる演出もすごく良かった(でもあそこはちょっと笑えるとこだと思ってる)。

エマ・ストーンの演技も圧巻だった。
手と足が別の用途の物とはまだ認識できていなかったり、音楽ではなくただの音だったり。そんな動物的で衝動的な感覚から始まって、旅を経てやがて音楽を知り、知を得て思想や思考へと発達していく...
その過程で顔つきが変わっていくエマの演技がすごく印象的だったし、ラストの安定しきった調和の笑顔には幸福を感じた。
セックスシーンが多めなのに全然エッチな気分にさせないのも最高にヨルゴスっぽかったし、セックスもあくまでもベラの経験の過程のひとつで、タルトを食べ過ぎて吐いちゃう経験と変わらないベクトルなんだと思った。あと、寝そべるとぺたんこになるエマの自然体なお胸も良かった。

ラファロおじのダンカンももっと胸クソなクズ男かと思ってたらとんだ道化役で、"世界一の男"の余裕で「面白え女」的にベラに手を出して、結局ズタボロになってたのが愛おしくて、ラファロおじってやっぱキャラ掴み上手いよな〜ってニヤニヤしちゃった。色男気取りがとんだバブちゃんで憎みきれない愛らしさ。色んな人からボコられてたのも笑っちゃった。でも、何だかんだイブに林檎を与えた蛇の役目を果たしてて、なくてはならない存在だったよね。

観終わってからも色々思うところが多くて、もう一回観たいしパンフレットも欲しかったけど、案の定パンフレットはもう売り切れだったので別の手を考える。とりあえず、まずは原作を読まなきゃ。

MEMO---
・あれ?もしかして赤ちゃんが娘だったとは限らない?言及してたっけ?
・「必要なのか不必要なのか試してみるまで分からない」「比較対象がなければ分からない」と言う科学者的思考が、ゴッドのパパからベラまでしっかり受け継がれていて、客観的にみたら不幸かも知れないけど、ちゃんと"親子"してて好き
・「結局階段ないんじゃん...」という絶望感。でもハリーって何となく、実は誰よりも人間の素晴らしさを信じたいから逆に否定しちゃうみたいな人間臭さがありそうで気になる


(2024/02/04)映画館(字幕)


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