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【映画】ディス・マジック・モーメント

映画館ひとつひとつに驚くようなドラマがあって、本当に心からこの映画を観て良かったと思った。全映画好きにおすすめしたい一作。

【ディス・マジック・モーメント】 2023年 - 日本 - 90分

監督:
リム・カーワイ

自身の思い入れのあるミニシアター"梅田テアトル"の閉館を知り、ショックを受けたリム・カーワイ監督は、日本全国22館のミニシアターを巡る映画を制作する。


映画好きとしてめちゃくちゃ興味深い題材だったこと。
そして、本作に登場しているミニシアター「シネマテークたかさき」が私のホームベースのうちの一館だったこともあって、絶対に観たいと思っていた作品。今まさに映画を観ているこのシアターがスクリーンにも映っているという不思議な体験ができたのも面白かったし、偶々この日、シネコン、ミニシアター、ミニシアターと3館をハシゴして3本の映画を観た最後の一本だったこともあって色々と感慨深かった。

経営者や代表、全てひっくるめて"支配人"と統一して書くけど、映画を深く愛する気持ちから運営している支配人、親や配偶者から引き継いだ支配人、成り行きでなった支配人などなど、泣けるエピソードから思わずクスッと笑えるものまで、映画館ひとつひとつに驚くようなドラマがあって、本当に心からこの映画を観て良かったと思った。全映画好きにおすすめしたい。

他館の支配人たちに対して「実際に会ったことはなくても、仲間のような感覚がある」と言っていた支配人がいたように、それぞれ地域や境遇、話している内容は違えど、インタビューからどこか共通する意識が感じられて、それは運営目線だけじゃなく映画好きの私たちにも共通する意識で、私たちが映画を愛する理由、私たちが映画を映画館で観たいと思う理由といったどこか感覚だったりするものを、支配人たちが言語化してくれていてすっきりした気分にもなった。

どのミニシアターもやっぱり運営の難しさや苦しさを抱えていたけれど、映画館を閉めるかどうするかという決断を迫られた時に、文化への大きな損失———それ以上に人生においての大きな損失のように受け止めて「やっぱり無くすわけにはいない」「失いたくない」と、生活や人生を天秤にかけて踏ん張ってくれているのを知れたのも感動したし、もし本当に地元からミニシアターが消えてしまったら?と想像した時、漠然とした喪失感と単純に「嫌だ」という気持ちが湧いてきて、なんだか不意に泣きそうになったりもした。

ミニシアターだからこそできる体験。
ミニシアターだからこその自由度や強み。
中身だけじゃなく、箱に対して価値観を見出す感覚———

まだまだマイナーなジャンルであるインド映画好きとしての気づきもあって、今でこそ「RRR」の影響でインド映画がそこら中で上映されるようになったものの、ちょっと前まではインド映画の上映館って本当にごくごく一部でしかなくて、そんなインド映画の上映館を探す過程で名前を知ったミニシアターが本作にたくさん出てきていたのも印象的だった。
インド映画ってディスク化されないことも多いから、機会を逃すと一生観れない一期一会の感覚が強くて、インド映画ファンは地方の映画館に遠征してまで映画を観たりする。そんな界隈だからこそ、ミニシアターのシネコンとの差別化の努力や特色が顕著に見えているのかも。

それと肌感覚的なものでしかないけど、昨今、以前よりもリバイバル上映が増えてる気がする。サブスクで何でも観れる環境だからこそ、逆に映画館で名作を観たい、そんな揺り返しのような流れがちょっと来てる気がする。私、趣味でレコードも聴くので、数年前から続いているレコードブームと似たよう流れを映画界隈にも感じていて、そこにもミニシアターの可能性を感じてる。

映画と映画館の関係って、もっと日常に落とし込むとコーヒーとカフェの関係性に似てると思う。コーヒーなんて家でもいくらでも飲めるけど、私たちはあえてカフェにも行く。カフェにはそこでしか飲めないメニューだったり集中して勉強や仕事に打ち込める場、交流の空間という意義もある。そしてカフェと一言に言っても、大手チェーン店から個人経営のいわゆる喫茶店まであって、チェーン店はシネコン、喫茶店はミニシアターみたいなもの。

「ディス・マジック・モーメント」というタイトル通り、ミニシアターでの体験はまるで魔法のように特別な瞬間でもあるけど、実はちょっと足を伸ばせば日常的に味わえる贅沢だったりもする。上手くいえないけどなんかもっとこう、喫茶店でコーヒーを飲む感覚でミニシアターに足を運ぶ層が増えたらいいなと思う。


(2024/04/20)映画館


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