行き場のないやるせなさや怒りに思わず「うぁ〜ぁぁあ〜!」と叫びたくなるような映画だった。
【でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男】 2025年 - 日本 - 129分
監督:
三池崇史
キャスト:
綾野剛
柴崎コウ
亀梨和也
小林薫
原作:
『でっちあげ―福岡「殺人教師」事件の真相―(新潮文庫)』
小学校教師の薮下は、保護者の氷室律子から息子・拓翔への酷い体罰や暴言で告訴されてしまう。マスコミの報道によって薮下はたちまち"殺人教師"とレッテルを貼られ、律子を擁護する大弁護団と民事訴訟で争うこととなるが、薮下は法廷で「全ては母子による"でっちあげ"だ」と証言し...
2003年に福岡で実際に起きた事件を題材とした映画。
観る前に思っていた「怪物」に似てる?という印象とは違っていて、社会派サスペンス系統の映画だった。「怪物」はもっとこう、純文学系だと思ってるので。
とにかく、行き場のないやるせなさや怒りに思わず「うぁ〜ぁぁあ〜!」と叫びたくなるような映画だった。つくづく私は一方の話しか聞かずに決めつける人が大嫌い。人間だからどうしたってものごとを見る目は主観にしかならないけど、だからこそ何かを判断する時、少しでも多様な意見を収集して主観が偏り過ぎないようにすべきだと思っているので、登場人物たちの9割にイライラし通しだった。
この前「フロントライン」を観た時にも思ったんだけど、マスコミって一体いつから真実の報道ではなく、センセーショナルなエンタメを伝える機関になったんだろ?報道こそ、時には記者の感情すら切り離して様々な情報をかき集めて、その中から真実に最も近いものを探し出して世間に伝えるのが役目だと思っているのに、この映画のように、記者の決めつけが大した裏付けもなくそのまま記事=世間にとっての真実になってしまうのが現実なんだという恐ろしさ。
人の粗探しをして悪口だけを言いふらす...やってることはその辺にいる噂好きの意地悪ババアと変わらないのに、マスコミという肩書きがつくとまるっと真実になっちゃうの?みんな噂好きのババアなんて嫌いじゃないの!?
いち個人が容易に情報を発信して、マスコミと同じくらい世間に影響を与えることができてしまう今の時代だからこそ、こういう映画を観て、改めて自分が被害者にも加害者にもなりうることを噛み締めた方が良いね。
(2025/06/28)映画館
以下、ネタバレ感想
氷室律子もおそらく”嘘つき"ではないんだろうなというところが恐ろしかった。
律子の中では冒頭のシーンこそ真実だし、彼女の中では矛盾する嘘も両方とも真実として成り立っている。律子に社会の助けが必要なのは明らかで、本当は身近な人間なら彼女のおかしさに気づけるはずなんだけど、酷いゴルフ焼けをした夫の顔がその説明になっているんだろうな。
それにしても体罰の「ピノキオ」「うさぎさん」って...子どもっぽい表現とはいえ、とっさの嘘として拓翔が思いつく表現ではない気がして、もしかして母親の律子が昔受けていた体罰???と想像して益々気分がめいっちゃった。