ロアーの映画ログ(ブログ支部)

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【映画】ラン・ファットボーイ・ラン 走れメタボ

今やペグは腹筋バキバキなメタボとは遠い世界に行ってしまったというのに...

【ラン・ファットボーイ・ラン 走れメタボ】 2007年 - イギリス - 100分

原題:
run fatboy run
監督:
デヴィッド・シュワイマー
キャスト:
サイモン・ペッグ
タンディ・ニュートン
ハンク・アザリア
ディラン・モーラン
ハーリッシュ・パテル
ティーヴン・マーチャント



メタボでダメ男なペグが、元妻の今カレに対抗していいところを見せようとマラソン大会に出場するお話です。

コロナ太りが激しいので、自分への戒めとペグ目当てに観たけど、結局、観てから1ヵ月たった今、何ひとつ運動していません。
今やペグは腹筋バキバキなメタボとは遠い世界に行ってしまったというのに...

観てから感想を書くまでだいぶ間が空いちゃったので、ペグのもちもち太ももと「ハンク・アザリアって脱いだらあんな筋肉なの?えっ?もしかしてCGだった?」ってことしか覚えてないけど、元ダン(ペグ)も今カレ(ハンク)もダメ男だったので、奥さんの男運の酷さだけはじわじわと思い出してきた。

監督ってデヴィッド・シュワイマーだったの?と言う驚きが、今の率直な感想のすべてかな?

(2020/12/16)レンタルDVD(字幕)

【映画】ブラックナイトパレード

良くも悪くも福田節のノリにどこまでシラけないかが1番の懸念事項だった。

【ブラックナイトパレード】 2022年 - 日本 - 109分

監督:
福田雄一
キャスト:
吉沢亮
橋本環奈
中川大志
渡邊圭祐
玉木宏
佐藤二郎
ムロツヨシ

原作:
中村光ブラックナイトパレード 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

大学受験にも就職にも失敗し、深夜のコンビニで3年間働き続けている日野三春。あるクリスマスの夜、悪い子の元へ訪れるという黒いサンタに連れ去られた三春はサンタハウスに就職することとなり...



中村光のマンガが好きなので、原作もコミックになった当初から読んでた。
映画を観るに当たって読み返したら、うっかり6巻で止まってたことに気づいたけど(年1ペースの刊行って絶対忘れる)。

とりあえず、中村光原作の実写化となると=福田雄一監督という公式ができてるので、良くも悪くも福田節のノリにどこまでシラけないかが1番の懸念事項だった。

ビジュアルの再現度は文句ナシ。
前半もかなり原作に沿ってて合格点。

ただ、オリジナルの笑いの部分が全部天丼か小学生低学年男子のノリで、やっぱり福田節だった。
福田監督は原作ありきの舞台演出の方が面白いなぁ...生舞台の瞬発力の方が合ってる気がする。
「新解釈・三国志」はつまらなかったけど「恋のベネチア協奏曲」や「サムシング・ロッテン」はホントめちゃくちゃ面白かったもの。

コミックのおさらいをしながら、しのちゃんの変顔の再現度はどこまで実写化するんだろ?と思っていたら、橋本環奈がかなり頑張っててえらかった。
でも冷静に考えたら、美人なら変顔しても全然かわいいし別にノーダメだったや。

鉄平君はめちゃくちゃかっこよかった...顔良すぎるしスタイルも良過ぎる。足の長さホントおかしい。腰の位置30cmくらい間違ってない?ガチでマンガの頭身だよあれ。しのちゃんと同じく鉄平くんも原作の設定をごっそり削られてたから、どこまでも完璧超人な鉄平くんでしかなくてホントお嫁に欲しい。

オリジナルストーリーに入ってからはかなり雑だし、ネズミが微妙過ぎて何だったのあれ?
原作だと内臓まで細切れになって原型を止めないほど人間を食らい尽くすくらいネズミが強いから、余計に映画のネズミのしょぼさが際立って辛かった。80年代のB級映画っぽいクオリティ...あぁそうだ!ネズミのあの感じ「クリッター」にめっちゃ似てる!!約40年前の映画のクオリティに似てた!!!!

まだまだ原作は続いているし、映画の話の続きあたりから結構シリアスな伏線回収モードに入るから、福田監督のノリで実写化できるギリギリのエピソードまで映画化した感じかな?匂わせ要素いっぱいだったけど、続編はなさそう。

MEMO---
・実写の話が出る前から私、帽子さんの中身をムロツヨシのイメージで読んでたことに気づいた
・しのちゃんなら絶対オートロックくらい容易く破れた筈
・コール部門のヘルメットとルドルフの仮面?はもっとリアルな骨っぽくして欲しかったな。安っぽくてかっこよくなかった
・「動物に危害は加えていません」のノリで、エンドロールに「実際のコンビニの勤務形態とは異なります」って流れてたのが笑った
・10 分前にオンラインでチケット取った時、観客が私だけであわや貸切かと思ったら後からカップルが入ってきた。貸切回避でほっとしたのもつかの間、私がいなければ2人の貸切だったのに、なんかごめんなさい。私の存在はないことにしてください、って謎に肩身が狭かった。これがリアタイのクリスマスじゃなかったのがせめてもの救い

(2023/01/09)映画館


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【舞台】プロデューサーズ

不謹慎さを最高の皮肉としてエンタメに昇華したこの作品、本当に大好き!

プロデューサーズ 2024年 - 日本 - 東急シアターオーブ

キャスト:
濱田崇裕(マックス・ビアトリックス)
神山智洋(レオ・ブルーム)
王林(ウーラ)
新納慎也(ロジャー・デ・ブリ)
神里優希(カルメン・ギア)
岸祐二(フランツ・リープキン)
友近(ホールドミー・タッチミー)

かつてはブローウェイで名声を得ていたが、今やすっかり落ち目となり、資金繰りに喘いでいるプロデューサーのマックス。
そんなマックスの帳簿を調べにきた会計士のレオは、舞台が大コケした方がプロデューサーは儲かるという仕組みに気づく。
そのことに目をつけたマックスはブルームを巻き込み、2人で史上最悪の舞台を作り上げ、大金を横領しようと考えるが...



映画版を観て大好きになったミュージカルの1つ。

いつか絶対生の舞台で観たいと思ってたのに、中々再上演がなくて悲しい...という話をスレッズで呟いたら「運営に要望を出すのもアリ」と教えてもらった。
でも、チキンな私は結局何もできず...にいたけど、その後あっさり公演の情報が舞い込んできた。わりとそういう引き寄せ体質。

そもそもこの舞台、"上演しない"ではなくて、"上演できない"のでは?と思って半ば諦めてた部分もあった。というのも、マックスとレオが史上最悪の舞台を作り上げるためにしたのが、

ナチス信奉者が書いたヒトラーを称える脚本を採用
・変わり者のゲイの演出家チームによる演出
・英語がちょっと怪しい外国人のブロンド美女を見た目と下心で採用
・おばあちゃんたち相手に体で資金調達

これを見れば、私が上演できないかも...と、諦めかけてた理由が分かりすぎるほど分かるはず。一昔前ならともかく、コンプラ・ポリコレが激しくなった今では、こんなにもありとあらゆるセンシティブな事柄にお触りしちゃってる舞台は無理では?と思ってた。
今回の公演も新演出だと聞いていたので、コンプラに配慮した演出になっていても、まあ仕方ないかと思いつつ観たら、どこのコミニュティにも忖度せず、映画版とほぼ変わらずそのまま舞台化されていて本当に面白かった!!

とにかく演目が好きで観に行ったので、恥ずかしながらキャストの2人がWESTだったこともよく知らず。オタ活でコラボカフェに行ったその足で池袋から渋谷に移動したのに、そこのロビーでもぬい撮りをしてる人たちが溢れててびっくりした。

濱田さんは声と骨格が好きだった。
神山さんは強迫神経症の設定で、ずっと赤ちゃんか小動物みたいな声で鳴いててかわいかった。確か劇中でも「赤ちゃんみたいな顔して」って言われてた気がする。

でも、WESTファンとしてはどういう心境で舞台を観てたんだろ?だいぶ下品なセリフも変顔もあったけど...でもまあ、私だったら推しのトンチキな姿を観れば観るほど、かっこいい時とのギャップが楽しくて嬉しいからそんな感じだったのかな?

私は映画でユマ・サーマンが演じていたウーラも大好きだったから、セクシーな衣装が映画とほとんど同じだったのも嬉しかった。
それとマックスのパトロンであるおばあちゃんの1人はWキャストで、私が観た回では友近だった。マックスとのイメプレ設定に水谷千重子が出てきたの笑った。

そしてずっとずっと、本当に何年もず〜っと観たかった2幕の「春の日のヒトラー」!
史上最低の舞台を上映するお話なので、劇中劇の形で「春の日のヒトラー」が実際に幕を開けるんだけど、ここの部分、振り付けまで映画そのままで、鉤十字タップダンスを生で観れて最高だった〜!!
なぜか今回チケットをケチったせいで3階席になっちゃって(確かシアターオーブのチケ代って相場より高いからA席にした)「でも上からだと、例のあのダンスが見れるし...」と期待してた通り、上からバッチリ鉤十字フォーメーションの行進も見れて感無量!!さっきから鉤十字鉤十字って言ってるけど、私にはそういう思想はないので大丈夫です。

振り付けや流れまで覚えてしまうほど、これまで何度も何度も映画版の劇中劇のシーンを観てきたとはいえ、やっぱり実際に劇場にいて、とんでもない作品を見せられた観客の心境を疑似体験できるのは格別。

しかも映画とは違って、劇中劇の途中でロジャーこと新納さんの客席いじりが始まったのも最高だった。
「今日は日曜日だからね。握手する?」って観客たちと握手してたの意味わかんなくて笑う。日曜日限定なの?そもそも新納さん、普通に美人でドレスも似合ってたし、足があまりに美脚過ぎた!本人も絶対、美脚の自覚あるよね。

それと、2幕後半のロジャーの曲もすごかった。
ここまでのあらすじを全部一人でやるやつ。
1幕ダイジェストの後にもぐもぐタイム(本当に何か食べてた)と物販紹介コーナーがあって面白かったし、イケメンネタにも笑った。

ラストのラストの方の「総統を笑いものにしよって〜!!」とキレる脚本家に「もうとっくに笑いものにされてるよ」と返した台詞が秀逸過ぎてホンソレ。

不謹慎さを最高の皮肉としてエンタメに昇華したこの作品、本当に大好き!
また機会があったら絶対に観に行きたい。

(2024/11/17)東急シアターオーブ(3階3列センブロ)マチネ


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【映画】アプローズ、アプローズ ! 囚人たちの大舞台

これは本当にネタバレも実話も何も知らずに観た方が良いやつだった。

【アプローズ、アプローズ ! 囚人たちの大舞台】 2020年 - フランス - 105分

原題:
Un triomphe/The Big Hit
監督:
エマニュエル・クールコル
キャスト:
カド・メラッド
ピエール・ロタン
マリナ・ハンズ
ロラン・ストーケル

落ち目の舞台俳優エチエンヌは、刑務所の受刑者たちに演劇を教えるワークショップの講師を務めることとなる。かつて自分も演じた「ゴトーを待ちながら」を演目に選んだエチエンヌは、劇場での公演を目標に囚人たちに演技を教え始めるが...



実話を元にした映画だそうだけど、これは本当にネタバレも実話も何も知らずに観た方が良いやつだった。
”予想外のラストが、あなたを待っている”というキャッチコピー通り、確かに衝撃のラスト...どうしてもアメリカ映画脳で観てしまうけど、そうだった、これはフランス映画だった。

大分私情入りまくりの講師エチエンヌが選んだ演目は、よりによって「ゴトーを待ちながら」。え、難しくない?と思ったけど「彼らは誰よりも待つことを知っている」と言う台詞になるほど納得。

エチエンヌが彼らの犯罪の内容を頑なに"知らなくて良いこと"と跳ねのけていたのが役者同士として向き合っている感じで良かったし、めちゃくちゃ長い台詞に「こんなのできる訳ない」と荒れていた文盲の囚人が、言えた瞬間、涙を流すシーンがすごく印象的だった。

ラストにはとにかくびっくりしたけど「ゴトーを待ちながら」とのリンクやエチエンヌの夢だった大舞台というのが、実話の筈なのにすごく劇的?というか創られたかのようにテーマが一貫してきれいに流れていて、別の意味でもびっくり。
決して派手ではないけど、待つことや自由の価値について考えさせられるいい映画だった。

(2023/05/31)U-NEXT(字幕)


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【映画】タイタス

シェイクスピアってこんなエグい作品も書いてたんだ...(声顰め)っていう。

【タイタス】 1999年 - アメリカ - 162分

原題:
Titus
監督:
ジュリー・テイモア
キャスト:
アンソニー・ホプキンス
ジェシカ・ラング
アラン・カミング
ジョナサン・リース=マイヤーズ
原作:
シェイクスピアシェイクスピア全集 12 タイタス・アンドロニカス (ちくま文庫)

ローマ皇帝に使えるタイタスはゴート族との戦いでたくさんの息子たちを失い、その弔いとして、捕虜として捕らえた女王タモラの長男を殺害する。
息子を殺されたタモラは次男・三男と共にタイタスに復讐を誓うが...



ジュリー・テイモア × シェイクスピアなんて、かなり私好みっぽい!と思って観た。

想像しちゃいたけど、まあまあ、まあまあまあまあ、かな〜り独特な世界観だった。ジュリー・テイモアもだいぶグリーナウェイ系の感性の人種だよね。

原作であるシェイクスピアの『タイタス・アンドロニカス』は読んだことなくて、ざっとWikiで登場人物とあらすじを確認してから観た。
ミリ知らからだとちょっと厳しかったかも。とにかく映画は長いし、人数多いし、夜中に観たので若干ウトウトしちゃったし。

ジュリー・テイモア × シェイクスピアは前にも「テンペスト」を観たことがあって(舞台の「真夏の夜の夢」もいつか観たい)あれもプロスペローを女性に改変してて独特だったけど、この「タイタス」も時代感覚がめちゃくちゃなテクノロジーや服装が混ざりあっていて、甲冑を着た中世っぽい軍隊が出てきたと思ったら、変なバイクがブンブン唸ってて、冒頭からだいぶかっ飛ばした世界観。こういうの全然嫌いじゃない。

この手の作品の何が良いって、こういう万人受けしそうにない映画を、おそらくかなりの莫大な費用を使って作っているところ。
テンペスト」の時同様CGはなぜかすごくしょぼいんだけど、その代わりセットの壮大さや衣装の造形はすっごく良くて、なんかもう画面が贅沢。
アンソニー・ホプキンスアラン・カミングジェシカ・ラング、ジョナサン・リース=マイヤーズと、キャストも絶妙に私の好きどころを揃えてるし。

お話とては、シェイクスピアってこんなエグい作品も書いてたんだ...(声顰め)っていう。最初期の作品だそうで、尖ってた時代のシェイクスピアなのかも。そのエグさに初めのうちはほとんど上演されなかったそうだけど、...うん、まあ、分かる。映画ならまだしも、舞台上でレ⚫︎プだの、舌を切る・手を切るだの、全部見せられたら流石にお腹いっぱいで、うわってなるもの。
映画でも映像は芸術的だったものの、手を切った代わりに枝を刺すってどう言う...最悪の生花...

アンソニー・ホプキンス演じるタイタスの息子たちが戦争で殺されたことをことの始めとするか、女王タモラの息子がタイタスに殺されたことをことの始めとするか...結局、復讐の発端ってどこになるんだろう?
とりあえず、復讐に燃えたタモラによってタイタスがどこまでも酷く辛い目に遭わされ続ける一種の老人への精神虐待みたいなお話だったし、自身よりも大切な身内を傷つけられた方がより辛い的よね的なアレで、もうどんどん不幸が積み重なってて、ちょっとかわいそうではあった。でもタイタスも自ら自分の子どもたちを殺してたりして、なん?ってなる。

ジェシカ・ラング演じるタモラも最初はまあ同情の余地はあったのに、生き残った下の息子たちがおバカだし、愛人がいたりして可哀想さがだいぶ薄くなる。結局どっちもどっち。復讐のドロ沼過ぎてロクな人たちがいない。それが狙いなのかな?

まあ、とりあえずそんな感じでタイタスはアンソニー・ホプキンスといえば...な人肉系のお話に走る訳だけど、コック帽を被ったアンソニー・ホプキンスがかわいかったので、私的にはほっこりだった。

いかにもバカ王子っぽいアラン・カミングも良かったな。タモラのバカ息子たちも皇帝の次男もみんな、若くて綺麗なラヴィニアに夢中なのに、その娘をポイっと捨てて、でっかい子どものいる熟女のタモラに走った性癖、素直で良いと思う。とはいえ、ジェシカ・ラングはセクシーで美魔女でかなり良かった。変なヘルメットみたいなのを被ってたりもしたけど、森の中で着てた赤い衣装がエッチさとおしゃれさの両方を兼ね備えてて特に好きだった。

(2024/11/01)GEO宅配レンタルDVD(吹替)

【映画】八犬伝

"虚"とは一種の"希望"だと思った。

八犬伝 2024年 -日本 - 149分

監督:
曽根文彦
キャスト:
CAST---
役所広司
内野聖陽
寺島しのぶ
磯村勇斗
黒木華
土屋太鳳
栗山千明
原作:
山田風太郎八犬伝【上下合本版】 (角川文庫)



高校に入って映画に鞍替えする前は、それこそ幼稚園の頃からものすごーくたくさん本を読む子どもだったので『南総里見八犬伝』との出会いもわりと早くて小学校の図書室だった。私が読んだのは子ども向けに噛み砕かれていて挿絵も漫画っぽいものではあったけど、思い返せばあれが和製ファンタジーとの初めての出会いで、子ども心にもワクワクするお話で、意味も分からないまま、仁・義・礼〜を一生懸命覚えようとしてたな〜なんて、大人になった今でも思い出せるくらいには印象深い作品だった。

なので『八犬伝』が好きだったから観よ観よ〜!という軽い気持ちで映画を観に行って、まさかボロボロに泣くとは思ってなくてハンカチの用意を怠った。演技がものすっごく上手い人たち揃いの映画だった時点で気づいて覚悟しておくべきだったのに...

"虚"と"実"。
もっとわかりやすく書くと"虚構"と"現実"が映画の大きなテーマで、歌舞伎の舞台の奈落での問答シーンにすごく考えさせられた。
四谷怪談』の鶴屋南北と馬琴という、真逆とも言える思想を持った作家同士の作風についての議論から、段々映画の根幹であるテーマの問答へと変わって行くところが見事過ぎた。
南北の姿は少し滑稽にも思える描写で、照明の暗さや逆さまに顔を出した姿にふと"天邪鬼"という単語が頭に浮かんできた。体勢を変えた後もよく絵や彫刻にある踏みつけられた小鬼のような体勢をしていて、これは全然的外れな解釈かもしれないけど、西洋にも主人公を惑わす悪魔の話ってよくあるし、それと重なるような気がして、それこそ本来の意味の"奈落"での鬼との禅問答のように感じた。

その問答を頭の中で反芻しながら、自身にとっての"虚"とは何かと考えた時、私は"虚"とは一種の"希望"だと思った。馬琴が息子を想う気持ちを作品にも重ねた願いとしての"希望"だったり、作品の続きを楽しみに待つ"希望"だったり、私たちが日々を生きるための糧としての"希望"だったり...それこそ"虚"そのものである映画が好きな私みたいな人たちには、この感覚にわりと共感してもらえると思う。「読者が許す嘘なら〜」っていう馬琴の台詞にも深く頷いちゃった。

映画は滝沢馬琴葛飾北斎という天才爺さん同士の友情物語の面もあって、お互いに偏屈だのジジイだの言い合ってる癖に、互いが互いの大ファンと伺えるコミカルな描写もあって面白かった。
内野聖陽演じる北斎の豪快さと変な爺さんっぷりと絶妙な優しさがすごく良い。ちらっと北斎の娘・応為も出てきて、わりと写実的な方の北斎の絵を盗み見てた描写が良きだった。それと馬琴と北斎の年齢差がそこそこあったと知って、北斎が本当に化け物に思えてきて、後半はだいぶ"葛飾北斎"というより"画狂老人卍"という目で見てた。

出番はさほど多くなくても、寺島しのぶの演技も流石。今際の際の一言がなかったとしても、あの一瞥だけで全て伝わったのでは?と思えるほどの迫力。言動だけ見ればとんでもない毒親で毒妻に違いないけど、人が誰かを攻撃する時って悪意だけが理由でもなくて、自身の抱える恐怖心から人を攻撃してしまうこともあって、馬琴の妻は後者だったんだろうな。恐怖を実際に言葉にしていたのは馬琴だったけど、きっと妻も同じ気持ちだったんだと思う。究極のツンデレ、、、というより、ツンを貫き通した女だったなぁ...って、ある意味すごくお似合いな夫婦だった気がする。

磯村勇斗も、あれ?なんか顔色悪い?から始まって、肩の薄さだとか背中の精気のなさだとか、段々吸うより吐く息の方が多くなって行くのを見ていて、実際に人を看取る時の「あぁ、もうダメなんだ...」って悟ってしまうあの一瞬の感覚を思い出した。死ぬ演技が上手い人は圧倒的に信頼できる。

役所広司役所広司と意識せず、最初から演じる役そのものとして観てる感覚なので、逆に褒めどころが出てこない。まあ、きっと他の人が褒めてるから私の褒めは要らんでしょう。

ところで、実は小学校の図書室には『八犬伝』が途中の巻までしか置いてなくて...つまり私は物語の結末を知らなかった。「あれ?もしかして『八犬伝』って未完?だから途中の巻までしかなかったの?」と曖昧な記憶で不安になったので、ある意味映画のストーリーに没入しながら観れた気もする。数十年を経て、ようやく物語の結末を知れて良かった。とはいえ映画ではだいぶエピソードを端折ってたので、今度ちゃんと本も読も。

そんな"虚"の部分である物語のパートもなかなかスペクタクルな和ファンタジーで面白かったし、栗山千秋の妖婦っぷりも似合ってて結構好きだったんだけど、渡辺崋山の「虚を貫き通せば...」と言う台詞が具現化したラストがじーんと心に滲みて思わずボロボロに泣いちゃった。
本当に"絵になる"生き様だった...

(2024/11/03)映画館


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【映画】紅門 べにもん(Red Doors)

3女を見る時の、長女の表情が色々物語ってて笑った。

【紅門 -べにもん-】 2005年 - アメリカ - 90分

原題:
Red Doors
監督:
ジョージ・アリー
キャスト:
CAST--- 
ツィマー
ジャクリーン・キム
セバスチャン・スタン



中国系アメリカ人一家を描いたインディーズコメディ映画。
3姉妹の複雑な恋模様と生き甲斐を見失って自殺を試みようとしてるパパを中心とした家族の再発見の物語です。

監督&脚本が女性なのもあって女性がメインのストーリーだったものの、ほぼ無言なパパの哀愁漂う存在感が印象的な映画だった。
パパが消えた後やラストでみんなが集まった時など、円卓という食卓の形が生きた構図やホームビデオで家族が繋がる感じがセンチメンタルかつ、温かい雰囲気で中々良き。

セバスタの役どころは3女の同級生でお隣さん。
そんな『ご近所物語』(ちょうど世代)な設定なので淡い恋物語が展開すると思いきや、恋心を拗らせすぎて度を越したイタズラ合戦になってた。
セバスタの方はまだかわいいイタズラだけど、家に忍び込んでベッドにアダルトグッズをばら撒いたり爆発物を仕込んだり、3女の仕返しが色々過激でびっくり(ネズミはあかん!)
「彼は私を愛してるんだから」なんて言ってる3女を見る時の、長女の表情が色々物語ってて笑った。

コメンタリーをザッと聞いたところ、3女とセバスタの関係はあえて言葉を交わさないで進んでいくようにしてるらしく、セバスタは後半まで全くセリフがなくてラストの方でやっと二言程度しゃべるだけ。

でもニュッと出てニュッとひっこむセバスタ、オ⚫︎シッコするセバスタ、箸を使うセバスタなど見どころはしっかりあった。3女の反応を伺ってるシーンがほとんどのため、上目づかいにジッと見つめてる姿がいささかクリーピーだけど、3女に見られてないと思ってる時の嬉しそうな表情がとってもかわいかった。

MEMO---
・唸っててもシーズーかはかわいい。
・パパのひよこ、青いモンスターみたいなおもちゃ、サンショウウオみたいなぬいぐるみなど、気になる謎の小物がたくさん出てくる映画だった


(2019/07/20)所蔵DVD(英語字幕)